採ってよい場所かどうか
化石採集でいちばん大事な判断です。採ってよい場所かどうかは、化石ではなく場所で決まります。
軽くて決定的なものから確かめます。天然記念物か保護区かはこの地図ですぐ分かり、該当すれば事実上そこで終わります。地権者を特定して連絡を取るのはいちばん重い作業なので、最後に回します。
そしてこれらの許可は重なって掛かります。区域の許可を得ても土地の許可は別に要りますし、逆もまた同じです。どれか1つでは足りません。
① 天然記念物に指定されていないか
いちばん先に確かめます。該当すれば、そこで終わりだからです。
文化財保護法 第125条(現状変更等の制限及び原状回復の命令)
史跡名勝天然記念物に関しその現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為を しようとするときは、文化庁長官の許可を受けなければならない。…
化石産地そのものが天然記念物に指定されていることがあります。 その場合、石を1つ持ち帰ることも「現状の変更」に当たります。 都道府県・市町村が指定する天然記念物もあり、条例で規制されています。
指定されているかは、その土地の市町村の教育委員会(文化財担当)で分かります。国指定のものは文化庁の一覧にも載っています。
② 自然公園・河川などの区域に入っていないか
土地の持ち主とは別に、区域ごとの規制があります。持ち主の許可があっても、区域の許可は別に要ります。
自然公園(国立公園・国定公園)
自然公園法 第20条第3項
特別地域(特別保護地区を除く。…)内においては、次の各号に掲げる行為は、 国立公園にあつては環境大臣の、国定公園にあつては都道府県知事の許可を受けなければ、 してはならない。
… 四 鉱物を掘採し、又は土石を採取すること。
特別保護地区でも同じ第4号の行為が許可制です(第21条第3項第1号)。 特別保護地区はさらに対象が広く、落枝を拾うことまで許可が要ります。 「禁止」ではなく「許可制」ですが、採集目的で許可が出ることはまず期待できません。
この地図では、産地ページと地図の「保護区」レイヤで区域を表示しています。 ただし表示は判断の出発点であって、法的な断定ではありません。 指定範囲は変わりますし、境界の精度にも限界があります。
河川
河川法 第25条(土石等の採取の許可)
河川区域内の土地において土石(砂を含む。以下同じ。)を採取しようとする者は、 国土交通省令で定めるところにより、河川管理者の許可を受けなければならない。 河川区域内の土地において土石以外の河川の産出物で政令で指定したものを採取しようとする者も、 同様とする。
河原は「誰の物でもない」と思われがちですが、河川区域内の土石採取は許可制です。 どこまでが河川区域かは河川管理者(国または都道府県)に確認します。
この地図に河川区域は出せません。全国をまとめたデータが公開されて いないためです。国土数値情報の「W05 河川」は流路を示す線のデータで、 河川法上の区域(堤防の外側までを含む面)ではありません。区域図は河川ごとに 各河川事務所が個別に公開しているので、行く先の河川事務所に問い合わせてください。 出せるようになったら地図に足します。
そのほか
- 国有林。森林管理署の許可が要ります。
- 市町村の条例。化石産地を持つ自治体が独自に保護条例を持っていることがあります。
国の法律に当たらなくても、条例で禁止されている場所があります。
これも地図に出せていません。 条例は自治体ごとに例規集で公開されていますが、全国を横断して 「化石の採取を規制している条例」を機械で拾える形にはなっていません。 行く先の市町村の教育委員会に聞くのが確実です。 - 採石場・工事現場。私有地であることに加えて安全管理の問題があり、 無断立入は認められません。
③ その土地は誰のものか
露頭の岩は、地面から独立した「落ちている物」ではなく土地の一部です。 民法は、不動産に付合した物の所有権は不動産の所有者のものだと定めています。
民法 第242条(不動産の付合)
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。 ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。
つまり私有地の岩を無断で掘り取れば、他人の物を持ち去ったことになります。 「誰も見ていない」「価値がなさそう」は関係ありません。地権者に断るのが出発点です。
よく「無主物先占」(誰の物でもない物は拾った人の物)が持ち出されますが、 これは所有者のいない動産の規定で、土地に付いている岩には当てはまりません。
民法 第239条(無主物の帰属)
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
④ 採った化石は誰のものか
ここはあらかじめ決めておくものです。あとから揉めます。
- 地権者の許可条件で決まります。「採ってよい」と「持ち帰ってよい」は 別の話です。許可をもらうときに、持ち帰りの可否・数量・報告の要否を はっきりさせてください。口約束ではなく、メールなど後で見返せる形で。
- 有料の採集場は、料金に持ち帰りの権利が含まれているのがふつうですが、 施設ごとに上限や対象の決まりがあります。掲示を読んでください。
- 学術的に重要なものが出た場合は、話が変わります。新種や、 その地域で初めての産出は、個人の所有物として抱え込むと科学的な価値が失われます。 地元の博物館や大学に連絡してください。多くの場合、 寄贈すれば発見者として記録に残ります。
迷ったときの連絡先
- その土地の市町村の教育委員会(文化財担当)——天然記念物・条例の有無
- 地元の自然史博物館・郷土資料館——産地の状況、過去の許可の実績
- 河川事務所(国土交通省の地方整備局/都道府県の土木事務所)——河川区域
- 森林管理署——国有林
このページは法律の一般的な説明であって、法的な助言ではありません。
条文は e-Gov 法令検索で確認したものを引用していますが、
実際に採集してよいかどうかは、その土地・その区域の個別の事情で決まります。
必ず上の窓口に確認してください。
条文の出典: e-Gov 法令検索(デジタル庁)
ほかの解説
- 安全 — 崖・増水・熱中症・クマ
- 道具 — 何から買えばよいか
- 岩の見分け方 — 点数の高い岩が、現地でどう見えるか
- ノジュール(団塊)の見分け方 — 化石が入っている石のかたち
- 石の割り方と、割らない判断 — 見つけたあとの、いちばん失敗しやすいところ
- 記録の取り方 — その化石を価値あるものにするもの